ナイトクラブや深夜に営業するライブハウスなど、「特定遊興飲食店営業」の許可を受けて店舗を運営するにあたり、風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)で備え付けが義務付けられている書類の一つが「苦情処理簿」です。
「書き方がよくわからない」「どこまで細かく記録すればいいのか」「警察の立ち入り検査で指摘されないか不安」と悩む経営者や店長の方も多いのではないでしょうか。
この記事では、特定遊興飲食店営業において必須となる苦情処理簿の正しい書き方、法律で定められた必須項目、保管期間、そして違反した場合の罰則リスクまで徹底解説します。
特定遊興飲食店営業における「苦情処理簿」とは?
特定遊興飲食店営業と苦情処理簿には、切っても切れない法的な関係があります。まずはその位置づけと目的を正しく理解しましょう。
風営法に基づく法的義務であること
特定遊興飲食店営業を営む者は、風営法の規定により、営業所(店舗)ごとに「苦情処理簿」を備え付けることが法的に義務付けられています。これは任意の書類ではなく、許可証と同じくらい店舗に存在していなければならない必須の法定帳簿です。
苦情処理簿を作成する目的
苦情処理簿を作成する最大の目的は、「店舗周辺の生活環境を保全し、トラブルに対して適切に対処していることを証明するため」です。
深夜に営業し、客に遊興をさせる特定遊興飲食店は、騒音や振動、客の路上でのたむろ、従業員の客引きなど、近隣住民からのクレームが発生しやすい業態です。警察や公安委員会は、店舗側がこれらの苦情を放置せず、誠実に対応・改善しているかを確認するために、この帳簿のチェックを行います。
苦情処理簿に記載すべき必須項目と書き方
いざ苦情が発生した際、何となくメモを残すだけでは不十分です。法律で定められている以下の項目を網羅して記載する必要があります。
法律で定められている記載事項
苦情処理簿には、必ず以下の5つの項目を記載できるようにフォーマットを整えておきましょう。
記載事項
- 苦情を申し出た者の氏名・連絡先
記載内容のポイント:相手が名乗った場合は記載します。「匿名希望」や名乗らずに電話を切られた場合は、「匿名」「不明」と記載して問題ありません。 - 苦情の申し出があった日時
記載内容のポイント:「令和〇年〇月〇日 〇時〇分」と正確に記録します。 - 苦情の内容
記載内容のポイント:「重低音が響いて眠れない」「店の前で客が騒いでいて通行の邪魔」など、クレームの具体的な内容を客観的に記載します。 - 苦情の原因究明の結果
記載内容のポイント:苦情の原因がどこにあったのかを調べた結果を書きます。(例:スピーカーの音量が規定より大きくなっていた、スタッフの誘導不足など) - 苦情に対する対応内容・改善策
記載内容のポイント:「誰が」「いつ」「どのように」対応したかを具体的に記載します。(例:〇時〇分に店長の〇〇が音量を下げ、店外の客に移動を促した。再発防止のためマニュアルを改訂した等)
具体的な記入例・例文
近隣住民から深夜の騒音についてのクレームがあった場合を想定した記入例です。
申出人の氏名・連絡先: 匿名(近隣マンションの住人と名乗る)
苦情の内容: 「店の外まで音楽の重低音が響いていて眠れない。どうにかしてほしい」との電話あり。
原因究明の結果: DJが交代したタイミングで、規定のボリューム設定を超えて音量を上げてしまっていた。また、エントランスの防音扉が少し開いたままになっていた。
対応・改善策: (対応者:店長 〇〇)
電話口で謝罪し、直ちにスピーカーの音量を規定値まで下げた。エントランスのスタッフに対し、防音扉の確実な開閉を指導。翌日のミーティングで全従業員に音量ルールの再周知を行った。
苦情処理簿の保管期間と備え付けのルール
苦情処理簿は、書いて終わりではありません。適切な保管と管理が求められます。
保管期間は「3年間」
苦情処理簿は、最後の記載をした日から起算して3年間保存する義務があります。「古いから」と自己判断で捨ててしまわないよう注意してください。
どこに保管すべきか?
必ず営業所(店舗)内に常時備え付けておく必要があります。経営者の自宅や、別の場所にある運営会社のオフィスなどに保管していると「備え付け義務違反」となります。
なお、紙のノートやバインダーで保管するのが一般的ですが、パソコンのExcelやシステム(電子データ)での管理も可能です。ただし、電子データの場合は「警察の立ち入り検査の際に、直ちに画面に表示させる、またはプリンターで印刷して提示できる状態」にしておく必要があります。パスワードがわからず開けない、といった事態にならないよう徹底しましょう。
. 苦情処理簿がない・記入漏れがある場合の罰則リスク
「クレームなんて滅多にないから作らなくていいだろう」という安易な考えは非常に危険です。
警察の立ち入り検査での指摘
特定遊興飲食店営業には、定期・不定期を問わず警察による「立ち入り検査」が入ることがあります。この際、許可証の提示とともに高確率でチェックされるのが「従業者名簿」と「苦情処理簿」です。
苦情が1件も起きていない場合でも、「苦情処理簿という帳簿自体が店舗に存在しているか」が問われます。(苦情がない場合は「記載なし」として帳簿だけは用意しておきます)。
行政処分や罰則の対象になる可能性
万が一、苦情処理簿を備え付けていなかったり、虚偽の記載(嘘の対応履歴など)をしたりした場合、風営法違反となります。
警察から「指示処分」を受けたり、悪質な場合は「営業停止命令」などの重い行政処分の対象になる可能性があります。たかが書類一つで営業できなくなるリスクを避けるためにも、必ず作成・運用してください。
まとめ:苦情処理簿を正しく運用し、健全な店舗経営を
特定遊興飲食店営業における「苦情処理簿」の重要性について解説しました。ポイントを振り返ります。
・「日時」「内容」「原因」「対応策」などを具体的に記録する。
・最後の記載から「3年間」は店舗内で保管する。
・未作成や虚偽記載は行政処分の対象になるリスクがある。
苦情処理簿は、単なる「法律で決められた面倒な作業」ではありません。近隣住民とのトラブルを未然に防ぎ、警察からの信頼を得て、健全かつ長期的に店舗を経営していくための重要な防衛ツールです。
「自店に合ったフォーマットがわからない」「風営法に則った書類管理ができているか不安だ」という店舗経営者様は、風営法務に詳しい行政書士などの専門家へ一度相談してみることをお勧めします。適切な体制を整え、安心して営業できる環境を作りましょう。

