「従業員が勝手にやったことなのに、会社や経営者まで責任を問われるの?」
風俗営業や深夜酒類提供飲食店を経営している方にとって、最も恐ろしいリスクの一つがこの問題です。結論から言うと、風営法には「両罰規定(りょうばつきてい)」が存在し、従業員の違法行為によって経営者や法人自体にも罰金などの重いペナルティが科される可能性があります。
「現場のことは店長に任せていた」「知らなかった」という言い訳は、原則として通用しません。
この記事では、風営法における両罰規定の仕組みや、適用されやすい具体的なケース、そして会社と経営者を守るための実践的な対策について、専門的な視点からわかりやすく解説します。
風営法の「両罰規定」とは?わかりやすく解説
両罰規定とは、違法行為を行った本人(従業員)だけでなく、その人物を雇用している事業主(法人または個人事業主)も同時に罰せられるというルールのことです。
両罰規定の仕組み(第56条)
風営法第56条では、法人の代表者や従業員が業務に関して違反行為をした場合、行為者を罰するだけでなく、その法人や個人に対しても各本条の罰金刑を科すと定められています。
つまり、現場のスタッフが逮捕・摘発された場合、雇用主であるあなたやあなたの会社も書類送検され、刑事罰を受けるリスクがあるということです。
なぜ両罰規定が存在するのか?
この規定が存在する最大の理由は、「売上のために従業員に違法行為を黙認・指示し、いざとなれば従業員に責任を押し付けて逃げる」といった悪質な経営者を逃さないためです。法律は、経営者には「従業員が適法に働くよう監督する義務がある」と考えています。
経営者が問われるペナルティと「行政処分」のリスク
両罰規定が適用された場合、経営者にはどのようなダメージがあるのでしょうか。
経営者・法人に対する刑事罰(罰金刑など)
違反した内容に応じて、法人や経営者個人に罰金刑が科されます。例えば、無許可営業や名義貸し、18歳未満の立ち入りなどの重大な違反の場合、1000万円以下の罰金(法人の場合3億円以下の罰金)といった重い刑罰が規定されています。罰金刑であっても「前科」となるため、今後の事業展開や融資などに深刻な悪影響を及ぼします。
「行政処分(営業停止・許可取消し)」
両罰規定によって法人の責任が問われると、「指示処分」や「営業停止処分(最大6ヶ月)」、最悪の場合は「許可の取消し」という致命的な処分が下る可能性があります。許可が取り消されれば、その場所での営業ができなくなるだけでなく、経営者自身がその後5年間は新たな風俗営業の許可を受けられなくなります。
風営法で両罰規定が適用されやすい3つの具体的なケース
どのような場面でリスクが潜んでいるのか、具体例を見ていきましょう。キャバクラ、ホストクラブ、アミューズメントカジノ(ポーカー店)など、業態を問わず注意が必要です。
ケース1:18歳未満の年少者雇用・客としての立ち入り
風営法違反の中で最も重く、かつ頻発するのが年齢制限に関する違反です。 「身分証の確認を怠った」「偽造された年齢確認書類を見抜けなかった」といった従業員のミスであっても、経営者の管理責任が厳しく問われます。
ケース2:違法な客引き(キャッチ)行為
従業員が、売上欲しさに路上で強引な客引きをした場合も要注意です。客引き行為そのものが禁止区域で行われていた場合、指示を出していなくても「業務に関する違反」として店舗側の責任が追及されるケースが後を絶ちません。
ケース3:時間外営業や無許可での接待行為
深夜0時(一部地域では午前1時)以降の営業や、深夜酒類提供飲食店(ガールズバーなど)で無許可の「接待行為」を従業員が行ってしまったケースです。「客に頼まれてつい…」という現場の独断であっても、両罰規定の対象となります。
「知らなかった」は通用する?両罰規定の免責要件
「勝手にやったことだ」という言い分で、経営者は責任を逃れられるのでしょうか。
原則として「知らなかった」では済まされない
前述の通り、経営者には監督義務があります。「現場に行っていなかった」「店長に任せていた」という主張は、裏を返せば「監督義務を放棄していた」と自白しているようなものであり、免責の理由にはなりません。
免責されるための「相当の注意及び監督」とは?
法律上、経営者が違反を防止するために「相当の注意及び監督」を尽くしていたことが証明できれば、免責される可能性があります。 しかし、これを証明するには口頭での注意だけでは不十分です。「マニュアルの整備」「定期的な研修の実施とその記録」「誓約書の取得」など、客観的な証拠が必要不可欠です。
両罰規定から会社と経営者を守るための3つの対策
会社を守るためには、個人のモラルに依存するのではなく「仕組み」で防ぐことが重要です。
対策1:年齢確認の厳格化とシステム化
目視だけの確認は限界があります。身分証のコピー保管ルールの徹底や、偽造身分証を見抜く対策など、従業員が「確認せざるを得ない」システムを構築しましょう。
対策2:従業員への定期的な教育と誓約書の取得
入社時だけでなく、定期的に風営法遵守に関する社内研修を実施し、議事録を残します。また、従業員から「違法な客引きを行わない」「時間外営業を行わない」旨の誓約書にサインさせることで、抑止力を高めるとともに、会社として監督義務を果たしている強力な証拠となります。
対策3:現場のパトロールと社内通報窓口の設置
店舗の運営を店長に丸投げせず、経営陣や本部スタッフが抜き打ちでチェックを行う体制を作ります。また、違法行為を強要されたり、目撃したりしたスタッフが匿名で相談できる社内の通報窓口を設けることも有効です。
万が一従業員が逮捕・摘発されてしまったら?
どれだけ対策をしていても、トラブルが起きる可能性はゼロではありません。
隠蔽は厳禁!直ちに事実確認を
警察の立ち入りや従業員の摘発があった場合、絶対にやってはいけないのが「証拠隠滅」や「口裏合わせ」です。これらは悪質性が高いと判断され、即座に営業停止や許可取消しなどの重い処分につながります。まずは冷静に事実関係を把握してください。
風営法に強い専門家への早期相談
警察からの呼び出しや事情聴取に対して、自己判断で対応するのは非常に危険です。万が一の事態が発生した場合は、すぐに風営法の実務や関連法令に精通した行政書士や弁護士などの専門家に相談し、適切な初動対応のアドバイスを仰ぎましょう。
まとめ:両罰規定の恐怖は「仕組み」で防ごう
風営法の両罰規定は、「従業員の責任=経営者の責任」として会社に重いペナルティを科す厳しいルールです。
「うちは大丈夫だろう」「バレないだろう」という油断が、築き上げてきた店舗や会社を一瞬で吹き飛ばす原因になりかねません。日頃からコンプライアンス体制を構築し、ツールやマニュアルを用いた「仕組み化」によって、会社と従業員を守る経営を目指しましょう。
